末梢動脈疾患 PAD

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末梢動脈疾患 peripheral artery disease PADは、大動脈分岐部、腸骨動脈、膝下動脈、脛骨動脈などの下肢動脈の狭窄を特徴としている。動脈硬化が一般的な原因であり、喫煙歴、糖尿病、高血圧、高脂血症、年齢、家族歴などがリスクとなる。70歳では10%程度の発症率となる。
PADは冠動脈疾患のリスクと同等であり、心筋梗塞、脳卒中などの心血管イベントのリスクが高いことを認識することも重要である。

要点:
PADの発症は血管リスクと関連している
ハイリスク患者では間欠性跛行や安静時痛、潰瘍/壊疽をチェックし、ABI<0.9で診断する
ラザフォード分類やABIで重症度を推定し治療検討する
治療は心血管リスクの低減、QOLの改善、下肢機能維持を目指し行う
喫煙や他の心血管リスクへの介入を最適化し、運動療法や抗血小板薬による内科的加療を開始する
内科的治療に反応しない場合や安静時痛や潰瘍形成を認める重症例では血行再建を考慮する

・スクリーニング対象
AHAやACCのガイドラインによるとPADのスクリーニングとして、足関節上腕動脈血圧比 ABIを測定することは、リスク増加を意味する以下の特徴を有する無症状の患者で有用とされている。ただUSPSTFはABIを用いた下肢PADのスクリーニングについて、支持する十分なエビデンスはないと結論づけている。

・症状
下肢PADはABI値により定義されるが、重症度により症状は多岐にわたる。間欠性跛行を呈する患者の25%で症状悪化し、5年で10-20%が血行再建術の適応となるとされる。
最重症型であるchronic limb-threatening ischemia CLTIでは、虚血による安静時痛、潰瘍、壊疽などを呈する。潰瘍は境界明瞭でpunched-out 病変が特徴である。これらの患者は診断後1年以内に30%がmajor amptationに至り、死亡率が20%であるとされる。外科的手術や血行再建術の適応となる。
下肢PADはRutherford(ラザフォード)分類で重症度分類を行う。治療方針の議論にも用いられ、カルテに記載をしておきましょう。

・診断
最も一般的な診断方法はABIの測定である。ガイドラインでは病歴や身体所見でPADを疑う全ての患者で推奨されている。ABIは感度/特異度ともに90%に近く非常に有用である。
ABIの正常値は1.00-1.40である。安静時のABIが0.90以下であればPADの診断が可能である。一般に跛行がある患者のABIは0.40-0.90であり、安静時痛や潰瘍を認める患者では0.40未満である。
安静時ABIが1.40を超える場合は非圧縮性の石灰化病変が存在することが示唆され、ABIによる判断が困難である。その場合は足趾/上腕血圧比を用い、0.70未満であればPADと判断する。
CTAなどによる画像診断で狭窄の位置や重症度を特定し、血管内治療や外科的血行再建をプランニングすることになります。

●治療
PADの治療は心血管リスクを下げること、 QOLの改善、切断の予防/機能維持に重点が置かれる。

・心血管リスクの低減
喫煙はもっとも重要かつ修正可能な危険因子とされています。心筋梗塞や脳卒中のリスクを低下させるため生存率を改善するために重要です。
加えて糖尿病、高血圧、脂質異常症などの併存症の治療を最適化することが重要です。

・抗血栓薬
ガイドラインでは心筋梗塞、脳卒中、CLTIなどの血管リスクを低減するため、PAD患者での抗血小板薬単剤療法が推奨されています。アスピリンが推奨されており、不耐症の患者ではクロピドグレルが代替薬として推奨されます。
DAPTは虚血性イベントは減らしましたが出血イベントが上昇すると報告されており、推奨される根拠はありません(CHARISMA trial)。

またPAD患者において超低用量リバーロキサバン+アスピリンによる抗血栓療法は、心血管死や心筋梗塞、脳卒中などの発生率を2%減少させ、大出血リスク(主に消化管出血)を1%程度上昇させると報告されています。しかしAHAガイドラインでは抗凝固療法は有益性がいわれておらず推奨されていない点に注意が必要です。出血リスクと心血管リスクを天秤にかけ、有益性が高い場合は検討するという姿勢になりそうです。

・症状緩和
運動ができる患者では運動トレーニングが有用とされており、間欠性跛行がある患者に推奨されます。
シロスタゾールは抗血小板作用と血管拡張作用がありPAD患者に推奨されています。追加による心血管リスクを低下させることは示されていませんが、跛行患者において無痛歩行距離と全歩行距離を改善するため推奨されています。心不全患者には禁忌なので注意が必要です。

・侵襲的治療
運動療法や抗血小板薬などで十分な効果が得られない場合、安静時痛や潰瘍/壊疽を認める患者には血行再建を検討します。ABI<0.4のCLTIなど血流障害が強い症例は早期の血行再建が望ましいとされています。
どちらにせよ無症状の患者には推奨はありません。

血管内治療や外科的血行再建の選択肢がありますが、血管内治療の方が一般的に侵襲性が低く合併症も少ないため増加傾向です。バルーン血管拡張術、ステント留置術などがあり適応を専門科に相談しましょう。

参考:MKSAP19

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