好酸球増多を認めたら

GIM

好酸球増多は外来でも入院でも時々遭遇しますが、いまいちどうしたらいいのか分かりにくい病態と思います。一般内科医ではGuidelineレベルの内容を知っておけば良いと思うので、2017年のBCSHのガイドラインを読んでみましょう。

“Guideline for the investigation and management of eosinophilia”
Br J Haemotol.2017;176(4):553-572.
PMID:28112388

●Key recommendation
・好酸球増多の原因を探りつつ、臓器障害の有無を評価すべきである
・詳細な病歴と身体所見を取る。
 アレルギー性疾患、皮疹、心肺、消化管などの身体症状
 渡航歴(特に南国、遠い過去であっても関与しうる)
 詳細な薬剤歴
・全ての患者で血算/目視、腎機能、肝障害、骨系統、LDH、ESR、CRP、VitB12を測定する
・Eo 500-1500(軽度-中等度)の上昇では更なる精査は必要でない可能性がある。
・全身症状があり1500以上の好酸球増多が持続する場合は追加精査を検討する。
・疑わしい反応性好酸球増多の特異的原因は早期に除外/確定すべきである。
・Eo 1500以上で明らかな原因が不明であれば、クローン性好酸球増多を伴う血液腫瘍を検索する。初期検査として末梢血でFIP1L1-PDGFRA(FISHやRT-PCRで)を検索する。
・鑑別に慢性好酸球性白血病、全身性肥満細胞症が含まれる場合には血清トリプターゼを測定する
・同定可能な原因がなくFIP1L1-PDGFRAが陰性の場合は、骨髄検査/生検/FCMなどを行う。リンパ腫やHESのリンパ球バリアントを評価するため、末梢血と骨髄リンパ球のFCMや遺伝子解析を考慮する。全身性肥満細胞症や他の骨髄腫瘍性疾患も考慮する。

臓器障害の評価として以下を推奨する

・胸部レントゲンもしくはCT、心エコー、血清トロポニン、呼吸機能検査
・unprovoked 血栓イベント
・臓器障害は重症度に応じて適切なタイミングでフォローする

緊急治療として以下を推奨する
・重症例/致死的状態で緊急治療が必要な場合→高用量コルチコステロイド
・糞線虫のリスクがありステロイド投与する場合→イベルメクチンの予防的投与

クローナルな好酸球増多の治療として以下を推奨する
・FIP1L1-PDGFRA陽性→低用量イマチニブ
・PDGFRBもしくはEVT6-ABL1陽性→標準量イマチニブ
・EVT6-FLT3陽性→スニチニブやソラフェニブ
・JAK2陽性→ルキソチニブ
・AMLでTKIの反応性が予想される変異がない→AMLに準じて治療
・その他→血液腫瘍の種類に準じて治療、臓器障害に応じてコルチコステロイド

HESのリンパ球バリアントの治療として以下を推奨する
・特発性HESに準じる

特発性HESの治療として以下を推奨する
・まずコルチコステロイドで治療
・コルチコステロイドの反応性なし/長期治療が必要/認容性がない→短期間イマチニブや免疫抑制薬、骨髄抑制薬、メポリズマブなど
・重症例や上記治療不応例→アレムツズマブを検討

HSCTは以下の場合に検討する
・FGFR1陽性例、慢性好酸球性白血病、上記治療不応で進行性の臓器障害を呈するHES

●定義
好酸球増多=500/μL以上
HES(hypereosinophilic syndrome)=原因不明の1500/μL以上の好酸球増多が6ヶ月持続した状態

●原因
二次性(反応性)、一次性、特発性の3つに分けられる
二次性の好酸球増多が最も頻度が高いため、二次性の除外を行う

以下に鑑別リスト、フローチャートを引用する。

●好酸球増多をきたす感染症疾患
一般的に好酸球増多と言われると寄生虫と関連付けてしまう方も多いかもしれないが、実際のところは稀である。感染症科コンサルトが来てしまうことも多いため、感染症についてはまとめておく

・糞線虫
熱帯地方への渡航歴を確認する
皮膚:急速移動性の皮疹、全身性または限局性の丘疹/紅斑
消化器:腹痛、下痢
肺:咳嗽、喀血
通常は無症状で好酸球増多のみが特徴となりうる
血清検査(ELISA)が感度/特異度良好であるが、免疫不全者では偽陰性に注意
新鮮便の鏡検も有用
流行地の渡航歴+好酸球増多を含む臨床所見があれば血清検査を行う(特に免疫抑制薬開始前)
陽性の場合にはステロイド開始前に治療を開始する

・鉤虫 Hookworm
流行地域への渡航歴を確認する(アジア、サハラ以南アフリカなどの熱帯/亜熱帯農村部)
通常は無症状であるが、重感染例では発症しうる。
Loffler’s pneumonia(好酸球性肺炎の一種)は旅行者で発症しうる
下痢、嘔吐、腹痛などの消化器症状を呈しうる
新鮮便の鏡検で診断する、偽陰性があるので必要であれば繰り返す

・フィラリア
流行地域への渡航歴を確認する(熱帯地域)
重度の掻痒、角膜炎による失明(オンコセルカ属)
一過性の皮下浮腫
好酸球増多が唯一の症状となりうる
フィラリア抗体(ELISA)、昼夜の血液塗沫でミクロフィラリアを検出する(タイミングは種類による)、皮膚切開と細隙灯検査(Onchocerca volvulus)

・回虫 Ascariasis lumbricoides
流行地域への渡航歴を確認する(熱帯地域)、多くは小児
稀であるが逆行性胆管炎、閉塞性黄疸、胆管穿孔、小腸閉塞を生じうる
肺病変として咳嗽、喘鳴、喀血をきたす
新鮮便の鏡検で虫体を確認する、腹水が見られることがある

・トキソカラ症 Toxocara canis(線虫の一種)
犬や猫との接触で感染する
通常は無症状、発熱や食思不振をきたすこともある
稀に内臓幼虫移行症(肝炎/肺炎)を起こす、眼症状、神経症状、心臓症状を生じうる
抗体(ELISA)を確認する

・旋毛虫症 Trichinella spp.
症状発現の数日前に加熱不十分な豚肉を摂取
無症状の場合もあるが、発熱、頭痛、嘔吐、下痢をきたしうる
寄生虫による筋肉浸潤による筋炎症状をきたしうる
心臓、呼吸筋、肺、中枢神経系に影響しうる
抗体(ELISA、ラテックス凝集)を確認する、感染後3-4週では偽陰性となりうる
Western blotや筋生検が有用なことがある

・住血吸虫症(Schistosoma)
流行地域への渡航歴を確認する(サハラ以南アフリカ、南米、東アジアなど)
淡水での遊泳歴が特徴

急性症状:限局性皮膚炎(水泳者のかゆみ)、発熱、筋肉痛、頭痛、咳嗽、下痢、腹痛
S.mansoni:肝脾腫や門脈圧亢進症
S.haematobium:泌尿生殖器の症状、血尿、扁平上皮癌、尿路閉塞
稀に異所性虫卵による中枢神経症状
好酸球増多が唯一の症状となりうる
尿や新鮮便の鏡検(早期では感度は低い)、腹部画像所見の異常をきたしうる

・侵襲性アスペルギルス症/アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
喘息や嚢胞性線維症の既往がある
肺:咳嗽、喘鳴、発熱、粘液栓の喀出、喀血
侵襲性アスペルギルス症は免疫不全患者に特徴的
CTでABPAは浸潤影や気管支拡張、IPAはhalo signを認める
ABPAではアスペルギルス抗原に対するプリックテスト、血清抗体、IgEを確認する
IPAでは生検検体の培養やグロコット染色を確認する

・コクシジオイデス
症状はないことが多い
砂漠地域や北米への渡航歴がある
肺炎と遷延する筋痛、発熱、結節性紅斑を呈する
呼吸器検体や組織の培養、PCR検査を確認する

・肝蛭症(Fasciola hepatica)
羊の飼育地域でのクレソンを摂取すると感染する(レタスやミントのなども)
消化器症状:右上腹部痛、嘔吐、黄疸を呈しうる
初期は軽微だが、重度の好酸球増多を呈しうる
抗体検査や腹部画像検査(肝膿瘍など)を確認する

・疥癬(Sarcoptes scabiei)
広範囲の強い掻痒を呈する丘疹型紅斑
夜間に増悪することが多く家族も感染しうる
皮膚のダーモスコピー、KOHなどを確認する

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