整形外科領域のMRSA感染でダプトマイシンを優先的に使用するか?

感染症

【Clinical Question】
MRSA治療の第一選択はバンコマイシンというのが一般的な認識ですが、整形外科領域でダプトマイシン使用が注目されており、整形外科Drから「MRSAが心配なのでダプトマイシン使いますか?」というような話が出てくることがあります。どうしてそういう傾向なのか、感染症医としての現時点のスタンスを考えてみます。

【Answer】
個人的な意見として、今のところMRSA治療のFirst choiceはバンコマイシンで良くて、症例数の多いRCTが出て今後どうなるかというところかと思います。

整形外科領域で治療が議論となる感染の代表はPJIかなと思います。PJIのMRSA感染についての論文を調べてみます。

そもそもPJIのガイドラインとしては2013年のIDSAがメジャーどころであり、PJIの治療成績は手術手技によって大きく異なりますが、抗菌薬に関してはMRSAのFirst choiceはバンコマイシンで、ダプトマイシンやリネゾリドは代替薬として記載されています。

ではなぜダプトマイシンが注目されているのかというと、①骨組織への移行性/抗バイオフィルム作用が良い(移行性は8-10mg/kgの高用量でのデータ、バンコマイシンとの単純比較はできない)、②TDMがなく腎機能障害も少ないため使いやすい(CKや好酸球性肺炎には注意が必要)、③いくつかの論文で有効性が示唆されてきているというところのようです。

ダプトマイシンの有効性について調べた論文を2つ紹介します。
① Antibiotics (Basel). 2022 Jul 8;11(7):922.
これは2022年の研究で、S.aureusによる急性PJI+DAIRでダプトマイシンの有効性を調べたものです。

S.aureusによる急性PJI 45例に対して、ダプトマイシン群(ダプトマイシン 10mg/kg + クロキサシリン 5日→レボフロ+リファンピシン)とバンコマイシン群(バンコマイシン+リファンピシン or レボフロ+リファンピシン)で治療成功率を比較しており、ダプトマイシン群では24例中22例(91.6%)、バンコマイシン群では21例中14例(66.6%)が治療成功しており、有意差があったという結果でした。
ダプトマイシン初期併用レジメンは従来レジメンよりも、S.aureusの急性PJIに対して治療成績向上の可能性がある

ただこの研究は症例数が少なめである点、新レジメン群は近年3年の症例が中心なため手術手技などの条件が異なる可能性、日本ではクロキサシリンは使用できない点に注意が必要かと思います

braz j infect dis 2019;23(3):191–196
これはダプトマイシンの骨感染に関するシステマティックレビューで、こちらでも複数研究でダプトマイシンを支持する傾向があることが言われています。ただ、投与量や背景疾患、手術手技、追跡期間やアウトカム設定が異なる研究があり、結果にばらつきがあるため、単純比較はできないと考えます。



・どういう時にダプトマイシンが推奨されるか?
バンコマイシンのアレルギーや腎障害により使用できない場合、バンコマイシン血中濃度が上がらない(AUC管理困難)、もしくは高MIC(≧2)の場合に使用が検討されるというのが一般論です。

以上からダプトマイシンは有用かもしれませんが、まだバンコマイシンからFirst lineが変わるというほどの結果はなく、小規模・非ランダム試験が中心です。整形外科領域では外科戦略が治療の中心であるという点は揺るがず、抗菌薬はあくまで補助、臨床データが豊富なバンコマイシンを優先というスタンスで良いかと思います。

【参考文献】
Clinical Infectious Diseases 2013;56(1):e1–25.
→IDSAガイドライン
Antibiotics (Basel). 2022 Jul 8;11(7):922.
braz j infect dis 2019;23(3):191–196.

コメント

タイトルとURLをコピーしました