ペニシリンアレルギーと言われたら

GIM

患者さんに「私はペニシリンアレルギーなんです」と言われた時、鵜呑みにしてアレルギー登録するべきなのでしょうか。その時に一緒にセフェム系もアレルギー登録していることがありますが、それは正しいのでしょうか。

●アレルギーの問診事項
本当にアレルギーなのか、アレルギーであれば何型なのか
アレルギーはそもそも4つの型に分類されます。このうちⅠ型(即時型)とⅣ型(遅延型)が医薬品アレルギーと関連が深いとされています。
Ⅰ型はIgEが関与する反応で、抗原暴露直後に発症しアナフィラキシーの症状を呈します。Ⅳ型はT細胞が関与し、投与開始後数日して播種性紅斑型丘疹(いわゆる薬疹)などを呈します。
まずは「アレルギーが出た時はどのような症状でしたか」と確認しましょう。投与後すぐに蕁麻疹が出たと言われればⅠ型アレルギー、投与して数日して体が痒くなりぶつぶつが出たと言われればⅣ型アレルギーを想起します。逆に嘔気や下痢の症状がメイン、もしくは覚えていないほど軽微な症状であればアレルギーの可能性は低いと考えられます。

・アレルギーが生じた時期
どれくらい前に起きたことなのかという情報は重要です。
小児期に生じただけなのか、先月生じたのかで情報の信憑性も異なりますし、ペニシリンアレルギーでは発生から時間が経っているほど安全に投与できる可能性が高いです。

・使用した薬剤
実際にどの抗菌薬で症状が出たのかを確認しましょう。被疑薬を絞り込むことで無駄なアレルギー登録をしなくて済みます。

・重症度
アナフィラキシーショック、重症薬疹(SJS/TEN、AGEP)などの重症例であれば、再投与のハードルはグッと上がります。再投与により致死的になりうるので代替薬を考慮する必要がありそうです。

・抗生剤使用歴や再発歴
「同じ抗生剤を最近飲んだけど大丈夫だった」「いつも同じ薬で皮疹が出るので避けている」などの病歴を聴取します。アレルギーの可能性の見積もりに重要です。

●ペニシリンアレルギーについて
一般論を記載します。よく誤認されている内容ですが、必ず理解しておく必要があります。

・ペニシリンアレルギーを申告した患者のうち95%は安全に投与できた
ペニシリンアレルギーは時間と共に失われていくため、成人例の多くは小児で発症しており実際には投与可能なことが多い
・ペニシリン即時型アレルギーであっても必ずしもβラクタム系を避ける必要はない(ペニシリン系とセフェム系の交差反応は側鎖構造の類似性が関与しており頻度は2%未満)
・ペニシリン遅発型アレルギーの重症薬疹や5年以内のアナフィラキシーがあればβラクタム系を避ける必要がある(軽症薬疹なら異側鎖のセフェム使用可)
・ペニシリンアレルギーではない患者を安易に誤登録すると、患者の不利益となる(感染症治療の失敗率(MSSAやGNR菌血症など)、周術期のSSIリスク、医療費の増大)

診断は即時型ではプリックテスト/皮内テスト、遅延型ではパッチテストを行いますが、抗生剤投与するぞという時にこれらを行って診断してから抗生剤を選択するような余裕はないので、病歴や問診が重要です。

●ペニシリンアレルギーへの対応
・アレルギーの可能性が低いと判断した場合

上記の問診をしてアレルギーの可能性が低いと判断すれば、患者/家族へ説明の上でアレルギー登録をしないということが考えられます。
ペニシリン系薬剤は感染症治療の中核を成す薬剤であり、投与できるかできないかは非常に重要です。問診などでペニシリンアレルギーは否定的であれば、ICの上で慎重にペニシリン系投与を検討します。

しかし判断に迷う場合(専門家不在など)はペニシリン系のみ避けセフェム系を使用することも検討されると思います。
原則として即時型のペニシリンアレルギーは同一の中心構造に起因し、セフェム系同士は類似した側鎖構造に起因するとされています。またペニシリン系とセフェム系の交差反応は側鎖構造の類似性に起因しているとされます。
つまり即時型ペニシリンアレルギーの患者では、側鎖構造が類似したセフェムに注意するということになります。どれとどれの側鎖が似ているかというのを適宜確認し投与できるセフェムを選択します。
例えばアモキシシリンの即時型アレルギーでは、セファレキシンやセファクロルは交差反応に注意する必要がありますが、セファゾリンやセフトリアキソンとの交差反応は稀と考えられます。これも必ず起こるというわけではないので、リスクと投与必要性の天秤となります。

・ペニシリンアレルギーと判断した場合
アレルギーの重症度に応じて対応を考慮します。
基本的には高リスク群ではβラクタムを避ける、低リスク群では側鎖構造が似ていないセフェム系を用いることになります。

簡便なリスク分類としてPEN-TASTスコアがあります。
Five years or less since reaction:反応が起きたのが5年以内もしくは不明
Anaphylaxis or anginoedema:アナフィラキシーまたは血管浮腫
Severe cutaneous adverse reaction:重度の皮膚障害
Treatment required for reaction:治療を必要としたか
という項目を確認しスコアリングをします。
スコアやその他の病歴からリスクを見積もりマネジメントします。

・中リスクの患者に投与したい時
中リスク患者への対応として決まったものはありませんが、感染症極期に開始するのであれば基本的にβラクタム系は避けておいた方が無難と思われます(経過中に皮疹や発熱などが出ることで複雑化してしまう可能性が高い)。
ペニシリン系やβラクタム系が投与できないデメリットが大きい場合には、実際に投与できないのかを確認するテストを行うことがあります。
アモキシシリンチャレンジ、Test doseチャレンジがあります。実際にアナフィラキシーなど起こる可能性があるので、専門家で行うのが安全です。よくICをしてプロトコルを作成し、医療スタッフと十分な打ち合わせをした上で慎重に行う必要があります。総合内科医が単独で行うことは推奨されません。皮膚科などへ相談が必要です。

参考文献:N Engl J Med 2019;381:2338-51.

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