血糖コントロールの併診依頼が来たら

GIM

よくあるパターンとして、整形外科で骨折で入院し未診断の糖尿病が発覚したので併診お願いしますというケースです。こういう時にどのようにマネジメントするのが良いのでしょうか

●まず確認すべき情報
発症時期:不明であれば最終の検診受診歴、口渇や体重減少などの病歴から逆算
病型:T1DMでないかを確認
どのくらい悪いか:HbA1cや空腹時血糖
3大合併症の有無:網膜症、神経障害(振動覚)、腎症(微量アルブミン尿)
食事生活歴:栄養指導に繋げる、節酒/禁煙指導も
動脈硬化性疾患の有無:高血圧や高脂質血症の評価、心電図/レントゲンで心疾患の見積もり、間歇性跛行などのASOを疑う病歴、頸動脈雑音、AAAなどを評価
これらは糖尿病患者でルーチンで確認するようになりましょう。話はそれからです。

●入院中の血糖管理
・目標血糖はいくつか

入院中の血糖管理の最低限の原則として「低血糖にしない」「ひどい高血糖にしない」ということを意識する必要があります。
それでは実際にどのくらいを目標とすべきかということに関して多数の研究がありますが、最も有名なものとしてNICE-SUGAR試験があります。これは最低限知っておきましょう。
これはICU患者で目標血糖81-108mg/dL群と目標血糖180mg/dL未満群で比較したところ、前者の方が90日死亡率や重症低血糖発生が有意に高かったという試験です。このような結果から、低血糖を誘発しない程度の血糖管理を目指すという流れになっており、ADAガイドラインでも入院患者は140-180mg/dLを目指すとなっています。
しかしこれはICU患者での研究であり、それ以外の入院患者での明確なエビデンスは不足しています。そのため私は重症患者や感染症急性期、周術期などの患者では一旦は140-180mg/dLを目指して管理を行いますが、それ以外の患者(糖尿病教育入院や急性期を脱した退院調整中の患者など)では低血糖やひどい高血糖にならなければいいという感じで管理を行っています。
急激な血糖コントロールによる糖尿病性網膜症の悪化リスク(Kumamoto Study)なども言われており、糖尿病は慢性疾患ですので急ぐ必要がなければゆっくり治療しましょう。

・どのように目標血糖を目指すか
血糖管理の方法として、インスリン持続静注、スライディングスケール、固定打ち、内服管理などがあります。
インスリン持続静注はDKAやHHS、ICU患者での厳密な血糖管理に有用ですが、常にインスリン投与量の調整が必要なため血糖安定までは1-2時間おきの血糖測定が必要です。一般病床で行うことはマンパワー的にも不可能であり、低血糖リスクが高いため推奨されません。
そのため内科病棟で一般的に使用するのは、スライディングスケール、固定打ち、内服管理などになります。これらのうち入院直後の不安定な状態では、経口摂取が不良であったり全身状態不安定な場合があるので内服管理は推奨されません。急性期の導入は避け落ち着いたところで開始を検討しましょう。

基本的には急性期ではスライディングスケールか固定打ち(強化インスリン療法)を使用しますが、これらはどのように使い分けるのでしょうか。結論から言うと固定打ちが推奨されます。
多くの医療機関でスライディングスケールが用いられていると思いますが、実は入院中の血糖管理においてスライディングスケールは単独では推奨されていません(Choosing Wisely)
理由はいくつかありますが、スライディングスケールでは血糖が乱高下すると言うことが一番の理由と思います。スライディングスケールには基礎インスリンと言う概念がなく、今の血糖値をみて投与量を決めるため今後の血糖推移を想定した投与になっていないことが理由です。
可能な限り固定打ちを行うことで血糖乱高下を避けることが重要ですが、入院直後でバチっと適切な投与量を指示することは困難です。そんな時には固定打ち+スケール対応がおすすめです。例としては速効型2U-2U-2U+持効型2Uなどの緩めの固定打ちで開始し、いつもより少し緩めのスケール(200-250mg/dLで2U追加など)を加えるやり方です。これにより血糖の乱高下を抑えつつ低血糖も回避できます。
加えて糖分を含む補液にブドウ糖5-10gに速効型1U混注することで補液による乱高下を予防することもできます。5-10g:1Uとしているのは患者により個人差があり、私は高齢者や低血糖リスクが高い場合には10g:1Uの割合にしています。

・退院までにやることは何か
①疾患教育や栄養指導が完了しているか
急性疾患での入院中であっても糖尿病教育は重要です。私は今回の入院と直接関係なくても、糖尿病による影響も多少はありうると患者に説明しています。これは糖尿病によってこんな目にあったかもしれないと思ってもらい治療への意欲をわかせるためです。退院後の治療継続必要性を理解してもらいます。
その上で栄養指導は何より重要です。可能なら食事を提供している人(奥様など)に来てもらい一緒に受けてもらいましょう。家族みんなで治療を支えていきましょうというような声がけも重要です。

②退院時の内服やインスリン投与量の決定

長期的な目標A1cをきめそこに合わせて血糖管理を行なっていきます。一般的には最低でもA1c<7%を目指しますが、高齢者やコンプライアンスが悪い患者ではそれ以上を目標として管理することもあります。長期管理の目標に合った強度の治療を行いましょう。強化インスリン療法が必要であれば、本人でそれが可能なのか、無理なら誰が代わりにやってくれるのか、介護や服薬管理は必要かなども確認します。やっぱり退院後に管理できないということになれば方法を見直さないといけません。

③合併症フォローのプラン

退院後に外来フォローでは 血糖調整(A1cフォロー)に加えて、合併症の評価も続けていきます。カルテに糖尿病のサマリを作っておくことで管理が楽になります。網膜症の評価を忘れていたなどの見落としがないようにプランを確認しておきましょう。

参考文献:
NICE-SUGAR試験、ADAガイドライン、MKSAP19

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