ただ医学知識をまとめるのも面白くないので、ブログらしく”ひとりごと”で日々の振り返りを書いてみる
僕は今年から大学病院の感染症科フェローとして働いていて、先週もいろんな症例を経験できた。
先週“20代の化膿性股関節炎“の症例がきたが、コンサルトの内容としては明朝にとった血液培養からGram陽性球菌検出され、これから手術にいくので抗菌薬チョイスお願いしますという内容であった。
今回のコンサルトのポイントは
①何よりまず抗菌薬投与が開始されているかをチェックする
②Gram陽性球菌が血液培養から出たらどうするか
③化膿性股関節炎の症例ではどんな問診が有効か
という点でだった
「何よりまず抗菌薬投与が開始されているかをチェックせよ」
血培陽性のコンサルトはよくあるが、たまにある失敗として、カルテ記載や情報収集に気を取られるあまり、まだ抗菌薬が開始されていないことに気がつかないということがある。
そんなことあり得るのか、というような失敗であるが、実際働いているとひやっとすることがあり、何より避けるべき失敗と思う。のんびりカルテを書いて患者を見に行くとシバリングしていて意識が悪いというような事態を回避しなければならない。
血培陽性のコンサルトが来たら、まずは適切な抗菌薬が入っているかを確認し、入っていないならすぐに抗菌薬開始する必要がある。
「Gram陽性球菌が血液培養から出たらどうするか」
何も考えずにバンコマイシン追加すれば良いかと思うが、可能な限り原因微生物を狭める努力が必要と思う。GPCはclusterかchainかで大きく異なり、GPC clusterまでしかわからない時はMRSAを考慮してバンコマイシン開始は妥当だろう。
今回はGPC chainであった。chainは長さで分類し、long chainはStreptoccous属、short chainはEnterococcus属を考慮する。Enterococcusの重要な特徴はセフェムがダメなこと、その上でE.faeciumはバンコマイシンでの治療が推奨される。今回はすでに整形外科でセファゾリンが開始されており、バンコマイシンを追加すべきか考えたが、E.faeciumの化膿性股関節炎というのも違和感があり、septicな様子もなくこれから洗浄・ドレナージにいくということだったので、セファゾリン継続として様子を見た。状態が悪ければバンコマイシン開始は妥当だろう。
グラム陽性連鎖球菌でバンコマイシンが必要なシチュエーションは何かというCQが浮かんだが、パッと思い浮かぶのは、①E.faecium、②セフトリアキソン耐性肺炎球菌による細菌性髄膜炎、③viridans streptococcus shock syndrome、④βラクタム投与下のブレイクスルーだろうか。
セフトリアキソン耐性肺炎球菌は細菌性髄膜炎のエンピリック治療にバンコマイシンが追加される主な理由で、第3世代セフェム MIC≧1であればバンコマイシン追加が推奨されている(米国では1%くらいいるらしい)。
viridian streptococcus shock syndrome(VGSS)は、FN+粘膜障害+キノロン投与中がキーワードであり、状態が悪い患者ではバンコマイシン追加が検討される(FNでルーチンにバンコマイシンを入れると予後が悪くなるので重症例で選択的に投与する)。PCG MIC≧2はβラクタム非感性の識別に役立ち、VGSSや死亡リスク上昇を示唆するという報告があるが、実際にバンコマイシンが必須かと言われるとわからない印象だし(セフェピムでもMIC超えるんじゃないか)、そもそもFNで状態が悪ければバンコマイシンは入れるよねという感じ。
「化膿性股関節炎ではどのような問診が有効か」
ポイントは感染経路の推定と感染性心内膜炎のリスク見積もりである。
実際に問診した内容は、①発熱と股関節痛どちらから始まったか、②歯科治療歴、③心雑音の指摘や治療歴、④アトピーなどの皮膚トラブル、⑤月経歴やタンポン使用 だった。
発熱が先なら菌血症→股関節炎の推測ができる。その上で、大関節炎ではIEを探せ(菌血症からの播種性病変)という格言の元に問診していく。歯科治療歴や心雑音、アトピーは簡単だが、今回は若年女性であり月経歴に注目した。実際に発熱が始まる3日前から生理が始まり、いつも通りタンポンを使用していたとのことだった。タンポンは長期間入れたりはせず、1日で交換しており、色が違ったり悪臭があったりはなかった。ただ今回のイベントと時期的に関連が疑われ、結局培養ではGBSが検出されたので、もしかしたらタンポン→生殖器からのtransient bacteremia→股関節炎だったのではないかと想像した。
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