【Question】
水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)は、皮膚症状のみならず、神経学的合併症を起こすことが問題となりますが、さらに血管を侵すという非常に特異な性質を持っています。
感染症医としては、“帯状疱疹後の合併症”という観点と“多発脳梗塞の感染症の鑑別”として理解しておく必要があり、案外多いという印象があります。そこまで広く知られていない印象ですが、知らないと診断・治療できないですが、一体いつVZV vasculopathyを疑うべきなのでしょうか?
【Answer】
まずはVZV vasculopathyの典型像をおさえます。
・病歴
典型的には、帯状疱疹(特に眼部)の後に数週-数ヶ月かけて頭痛や脳梗塞が出てくるという病歴になります。ただここで注意すべきは、1/3の症例では先行する皮疹がないと報告されており、皮疹がなくても否定できないという点になります。そのため病歴だけでは診断できない症例もあり、その場合は他の所見から疑う必要があります。
本病態は大-小動脈が段階的/多発性に障害されるという特徴があり、神経症状も血管病変の病歴をとります。通常の感染症では急性経過となりますが、この病態では突然発症/段階的な悪化という特徴があり、病歴で区別することが診断に重要です。

・典型的な画像所見
前述の通り、本病態は大-小動脈が段階的/多発性に障害されるという特徴があります。そのため病変は皮髄境界に好発し、多発・両側性で時間差で増加してくるような経過をとります。MRAでは分節状狭窄や後拡張を認めることがあります。素人目には、若年者や血管リスクが高くない患者なのに、MRAで血管ボロボロという感じに見えます。
“Radiopaedia”というwebsiteは典型的な画像を載せてくれていたり、画像所見から鑑別をあげる際に重宝します。


・典型的な髄液所見
軽度の単核球優位の細胞増多を認めることが多いです。1/3は細胞数増多がないとされています。VZV-PCRやFilm Array(髄膜炎パネル)が陽性となることもあります。診断のところで後述しますが、髄液VZV-PCRは実は感度が低いとされており、本病態の診断には髄液VZV IgGをチェックすることが有効とされています。
以上から、VZV vasculopathyを疑うタイミングとしては、
① 帯状疱疹の既往 + 神経症状が突然発症もしくは段階的な悪化
② 頭部MRIで背景の血管リスクに比してひどい多発脳梗塞/血管障害
③ FilmArrayやPCRがVZV陽性
などが挙げられます。
皮疹がある場合や髄液PCR陽性となれば特に診断に悩まないと思いますが、臨床医としてはそれらがない場合にいかに疑えるかが診断・治療に重要なポイントと思います。そのためには病歴と画像所見の情報が重要です。
・VZV vasculopathy の診断
髄液 VZV-DNA PCRが陽性となればそれまでですが、感度が低い(最初の2週間が検出しやすい、既報では感度30%)ということが問題であり、髄液VZV-IgG index(血清IgG/髄液IgG)が有用とされています。PCRとIgGが両方陰性であれば除外できるとされています。
ちなみに鑑別疾患は、中枢神経原発血管炎(PACNS)、肉芽腫性血管炎(サルコイドーシス、梅毒、TBなど)、血栓症(トルソー、APS)、septic emboli、血管内リンパ腫などが鑑別になります(vasculopathyの鑑別)。
【Take Home Message】
・VZV vasculopathyは、帯状疱疹罹患し数週間後に脳梗塞などの神経障害を生じる病態
・皮疹の病歴は1/3の症例では認めず、皮髄境界の多発梗塞や血管狭窄などの画像所見が重要
・髄液VZV-DNA PCRは感度が低く、髄液VZV-IgG indexを測定する
【参考文献】
Radiopaedia “Varicella zoster virus vasculopathy”
Am J Med. 2024 Aug;137(8):e147-e148.
Up to date

コメント