【Clinical Question】
梅毒は遭遇頻度が高い性感染症であり、感染症医不在の状況では一般内科医でも対応できる必要があります。本邦でもステルイズ(ペニシリンの筋注製剤)が使用可能となり、標準治療が可能となりましたが、ステルイズの供給不安があり最近は治療をどうしようかと悩むことが増えました。
ステルイズ以外の治療選択肢として、アモキシシリン内服が本邦では古くから行われており、その根拠となった文献について調べてみます。
【Answer】
梅毒の治療は、早期梅毒、後期梅毒、神経梅毒で異なるという理解がまず重要です。
早期梅毒:①ステルイズ1回、②ドキシサイクリン100mg 2T/2 14日、セフトリアキソン1g IM/IV 10-14日
後期梅毒:①ステルイズ3回(週1回)、②ドキシサイクリン100mg 2T/2 28日、セフトリアキソン2g IM/IV 10-14日
神経梅毒:①PCG2400万単位/day 持続静注 10-14日、②セフトリアキソン2g IV 10-14日
というレジメンが一般的です。

臨床的に重要なポイントは“神経梅毒ではないか”ということです。発症時期などがはっきりしない梅毒では後期梅毒として3回ステルイズを打てば治療でき、これは外来でできるので早期梅毒か後期梅毒かで悩むくらいなら、3回やってしまおうという気持ちで診療しています。ただ、神経梅毒は別で”原則入院の上で静注治療が必要”です。そのため、神経梅毒ではないかという点は治療選択の時点で最も重要です。具体的には、頭痛、難聴、視力障害などの神経梅毒に特徴的な所見があれば、諦めて髄液検査を行い細胞数上昇があれば、神経梅毒としてやるという形で診療しています。眼科医の診察で眼梅毒に矛盾のない所見があり、梅毒血清反応陽性であれば、髄液検査はスキップして、入院で14日治療をやり切るというプラクティスも現実的と思います。
ステルイズがどうしても使用できない(供給不足 or 採用がない)状況で、早期梅毒/後期梅毒の治療をしないといけない時はどのような選択肢があるのでしょうか。
外来治療の選択肢としては、ドキシサイクリンもしくはアモキシシリン内服が良いかと思います。
・ドキシサイクリンのエビデンス
早期梅毒606例での治療成功率がPCGでは91.4%、テトラサイクリンで82.9%で有意差なしの報告があります。また別の研究でも、ドキシサイクリンで治療された34例の早期梅毒で治療失敗は0例であったと記載されています。
ステルイズが使用できない早期梅毒(ガイドライン的にはペニシリンアレルギーが代表的なシチュエーションとして記載されています)に対して、十分治療選択肢になるかと考えます。
・アモキシシリン内服のエビデンス
CDCのガイドラインには記載がありませんが、本邦からのデータがあり、使用されることがあります。
アモキシシリン3g 分3 + プロベネシド 250mg 1日3回というレジメンで、早期梅毒は14日で97.5%の治療成功、後期梅毒は28日の治療で94.4%の治療成功と報告されています。日本の添付文書では最大量は2000mgとなっており、そこのギャップは注意が必要です。アモキシシリン1.5g単独の研究もあり、138例の患者で治療成功率は94.9%であったと報告されています。本邦では、この研究からアモキシシリン1.5gで治療する臨床医も多い印象を受けます。
【Take Home Message】
・梅毒の治療をする前に”神経梅毒でないか”という視点を持つ
・早期梅毒/後期梅毒の治療はステルイズが標準治療であるが、供給不足の場合の代替レジメンとして、ドキシサイクリンもしくはアモキシシリン3g+プロベネシド(もしくはアモキシシリン1.5gのみ)の選択肢は考えられる
【参考文献】
MMWR Recomm Rep. 2021;70(4):1.
→STI Treatment Guideline, 2021 (CDC)
Clinical Infectious Diseases 2006;42:e45–9.
J Infect Dev Ctries. 2014 Feb;8(2):228-32.
Clin Infect Dis. 2015 Jul;61(2):177-83.

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