心不全の可能性があるからBNP測定しておいてね
どうして心不全なのにBNPを測ってないの
という言葉はよく聞かれますが本当に正しいのでしょうか?
「BNPはどういう時に上昇するのか」
BNPは脳性ナトリウム利尿ペプチドの略で、左室充満圧の上昇による心筋の伸展刺激や虚血や肥大などによる刺激で分泌されると言われています。BNPは分泌後に活性型のBNPと不活性型のNT-proBNPに分かれ血中へ放出されます。
そのため心不全の状態であればBNPは高値になります。
しかしそれ以外の状態でも心臓への刺激があったりする場合には上昇してしまいます。敗血症、貧血、脳卒中、腎不全、高齢者などでも上昇することが知られており心不全の特異性は低いと考えられます。
「どういうときにBNPを測定すべきなのか」
日本循環器学会の心不全ガイドライン 2017ではBNPの測定は診断、重症度、予後評価にクラスⅠで推奨されています。一方で治療効果判定とスクリーニング目的の測定はクラスⅡaとなっています。
①診断
BNPは特異性は低く、陽性的中率は低いため確定診断に用いるものではなく基本的には除外に役立ちます。
呼吸困難患者においてBNP<100、NT-proBNP<300では急性心不全の陰性的中率は90%以上であったと報告されており(Robert E.BMJ 2015;350:h910.)、「急性心不全らしくないけど念の為BNP低値を確認して裏付けをしておこう」というときに有用です。しかし100%否定できるわけではないので重要な点はBNP単独で判断しないことです。
また同じ研究でBNP>500、NT-proBNP>1800をカットオフにすると急性心不全の陽性的中率はそれぞれ89%、80%であったとも報告されています。診断にもある程度有用ですがやはりBNP単独で診断はできずそれ以外の所見を集めることが重要です。そのためBNPが高いことのみを以って心不全と診断したり、利尿薬を投与するというのは適切ではありません。
しかし実臨床で悩むのは、肺炎もありそうだけど心不全の既往もあるという患者の呼吸不全などのケースと思います。そのような症例でBNPの数値で急性心不全を診断/除外できるのでしょうか。こういう微妙な症例では多くがBNPの値はグレーゾーンにあり、修飾因子(敗血症、AKIなど)があり数値の絶対値では評価はできません。私は実臨床でBNPのおかげで心不全を診断/除外できたということは経験したことがありません。
②重症度/予後評価
急性心不全で入院した患者を対象としたADHERE registryという研究の中でBNPを測定していた症例を解析したところ、BNPが高ければ高いほど挿管率や死亡率などが高かったと報告されています。
そのほかにもいくつかの研究がありますが、BNPやNT-proBNPが高ければ高いほど重症度が高く、予後が悪いという傾向が示されています。これは絶対値による評価が難しいためカットオフ値は設定できません。またBNPの数値がマネジメントに影響を与えるかという点に関しても、高いから挿管しようとかそういう判断には使えないことは自明です。
以上からBNPは絶対に測定しないといけないというものではなく、検査前確率を推定する努力をした上で参考にすべき値と考えています。
参考文献:
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
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