大動脈弁狭窄症 AS

大動脈弁狭窄症 ASは一般内科医でも聴診で発見しやすい弁膜症であり、かつ重症例では突然死リスクをきたす早期診断/介入な病態です。内科医として知っておくべき知識をまとめます。

●ASのスクリーニング
ASの診断契機としては、外来受診や検診の聴診が最も多いのではないでしょうか。典型的には鎖骨-頸部へ放散する収縮期駆出性雑音であり、「ヒューン、ヒューン」というような少し高い音が聞こえます。疑わしい場合にはエコーで診断をつける必要があります。

・ASのエコー
長軸や短軸で大動脈弁がしっかり開いているかを見ることが重要です。このときカラーをのせ、大動脈弁の先にモザイクエコーが見えるかを確認します。
エコーの機種によりますが、LVOT-VTIとAV VTIを測定することで弁口面積を計算してくれるものもあり重症度評価も実は難しくはありません。
ASの原因として最も多いのは石灰化ですが、先天的に二尖弁であることで生じることがあります。

●ASを考慮すべき病歴
聴診で偶然診断がつくことは多いですが、特定の状況ではASを疑い積極的に聴診を行う必要があります。失神狭心症心不全はASに関連する臨床症状として特に重要です。これらを主訴に受診した患者さんではASを除外するため聴診やエコーを行います。
心不全や狭心症でASを合併している場合、前負荷を減らす行為は心拍出量低下をきたすリスクが高いため慎重に行う必要があります。ニトロ使用前など最低でも聴診してASらしい駆出性雑音がないことを確認しましょう。

●AS診断時の対応
①病歴の確認
上述した失神や狭心痛、息切れなどが重要な病歴であり必ず確認します。労作時の息切れは加齢による変化と理解されてしまうことがありますが、具体的に趣味の散歩に行かなくなった、階段を登れなくなった、横断歩道が間に合わなくなったなどの運動耐用能がいつからどのように障害されてきたかを具体的に聴取することが重要です。
有症状のASであれば手術適応を考慮すべきと言われており治療方針決定に必要な情報です。

②重症度評価
上述の通りASの診断と重症度評価は心エコーで行う。弁の形態(弁尖の数など)、輝度の上昇、石灰化の有無/程度、開放制限などを観察し、疑えばドプラ方を併用して重症度評価を行う。
AV Vmax(最高血流速度)、mPG(平均圧較差)、AVA(弁口面積)などを計測する。severe ASの基準はVmax>4.0m/s、mPG>40mmHg、AVA<1.0cm2となっている。

③冠動脈疾患はないか
左室肥大による酸素需要の増大、心拍出量低下、動脈硬化性疾患の併存など様々な要因によりAS患者では冠動脈疾患を伴うことが多い。
冠動脈CT検査は陰性的中率が高くスクリーニングに有用である。TAVIを考慮している場合には大動脈弁や基部の評価などを兼ねてTAVI-CTを検討する。

④アドバンスケアプランニング ACP
ASは進行性疾患であり重症例では急死のリスクも伴う。内科医としてACPを導入しておくことは侵襲的治療の適応検討や急変時などに有用である。
患者の生活史や価値観、家族や周囲の状況をまず確認する。ケアのゴール、治療に期待すること、絶対に許容できない状態/これができなくなったら生きている意味がないことなどを確認しておく。

⑤内科的管理
ASの予後改善効果が認められている薬物治療はない(スタチンは進行抑制の可能性が指摘されたが効果は認められなかった)。
一般的な心不全管理(減塩などの栄養指導、禁煙指導、体重測定など)や慢性疾患管理(高血圧、脂質異常症、DMなど)に加えて、重症度に応じて心エコーをフォローすることになる(重症:半年-1年おき、中等症:1-2年おき、軽症:3-5年おきが目安)。

●LFLG AS(低流量低圧較差 Low Flow Low Gradient AS)について
ASの重症度評価はAVA、mPG、AV Vmaxなどで行われるが、これらそれぞれの重症度が一致しないことがある。mPGやAV Vmaxは血行動態依存性があり、一回心拍出量が低下している場合には低く見積もられることがある。これをLFLG ASといい、EF低下している場合にはドブタミン負荷エコーを検討する

●TAVI vs SAVR
severe ASは有症候、EF低下、他の心臓手術の適応がある場合はclass Ⅰで手術適応となる。無症候性Very severe ASはclass Ⅱaで手術適応となる

術式は基本はSAVRであるが、高齢者で周術期リスクが高い場合にはTAVIを考慮する。どちらを行うのかは専門チームで議論する必要がある。
一般論としてSAVRの周術期死亡率は3%程度、TAVIの周術期死亡率は1%である。またTAVIの2%で脳梗塞が発症し、7%でペースメーカー留置が必要となる。

TAVI弁がどれくらい長持ちするのかはわかっておらず、長期生存が望める患者ではTAVIは選択しずらい(今後変わってくるかもしれない)。一般的には80歳以上もしくは生命予後が10年未満の患者ではSAVRよりもTAVIが推奨される。

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