●免疫チェックポイント阻害薬(Immune Checkpoint inhibitor:ICI)
ICIは免疫チェックポイント分子を阻害することで、癌細胞に対する免疫を活性化し抗腫瘍効果を発揮する薬剤です。
免疫チェックポイント分子は、活性化したT細胞に発現しており、T細胞の活性化が持続し過剰な反応を生じないように「ブレーキ」として機能しています。癌細胞はこの免疫チェックポイント分子を利用し生き延びています。
抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、抗CTLA-4抗体が現在使用されています
主なものを記載します
腫瘍微小環境において癌細胞はPD-L1を発現し、エフェクターT細胞のPD-1と結合することでT細胞の活性化を抑制します。これを阻害するのが抗PD-1/PD-L1抗体です。
またCTLA-4はリンパ節でのT細胞への抗原提示やプライミングの抑制に関与しており、これを阻害するのが抗CTLA-4抗体です。
ICIは多くの悪性腫瘍の転期を改善する一方で、特有の免疫有害事象(irAE)の増加をもたらしています。適応も拡大しており増加の一途と思われ、総合内科医も理解しておく必要があります。
ICIはがん免疫機構の抑制を解除し抗腫瘍効果を発揮する
自己反応性T細胞の抑制も解除することで炎症性副作用が生じる(irAE)
●免疫関連有害事象 immnue-related adverse events irAE
ICIにより生じる炎症性副作用の総称を免疫関連有害事象 irAEと総称します。
自己免疫疾患のように多臓器に障害をきたすため、全てを覚えることは現実的ではありません。
非専門医としてはICI投与中の患者ではirAEを鑑別にあげることがまず重要です。
その上で大まかなポイントを整理しておきましょう。
より細かい内容はASCOのガイドラインなど適宜参照します
・どのような種類のirAEがあるのか
irAEには多彩なものがありますが、実際にどんなものがあるかを知っておきましょう。外来では下記病態を考慮してフォローアップしましょう。
一般論として頻度が高いirAEとしては肺炎、肝炎、腸炎が挙げられます。
また臓器別致死率は心筋炎 39.7%と最も高く、肺炎や肝炎が10-20%、腸炎が5%、内分泌異常は2%程度とされています。
微妙な特徴としては、抗CTLA-4抗体では腸炎や下垂体炎が多く、抗PD-1抗体では間質性肺炎が多いとされています。
・どのような患者にirAEが生じるのか
irAE発症に最も重要な要素は、癌の種別ではなく、どのICIがどの様に用いられたかである。癌患者ではICIの使用歴がないかを確認することが重要である。ICI併用療法だと比較的早期にirAEが出現する。
・irAEを疑った場合どうすればいいのか
irAEがどの臓器にどのくらいの重症度で生じたかを明確にする
どの臓器に:
単なる腸炎や肺炎であっても鑑別は多岐に渡り、総合内科的なマネジメントが必要となる。問診や身体所見、検査所見から鑑別疾患の重み付けを行い他疾患を除外していく。
例えば腸炎であれば、市中の急性腸炎はもちろん、CD腸炎やCMV腸炎の可能性、高齢発症のUCなども考慮する必要がある。診断には生検が重要であり消化器内科コンサルトが必要となる。
肺炎であれば、市中肺炎以外にも抗酸菌や真菌の関与(免疫能の見積もりが重要)も考慮し、放射線性肺炎、薬剤性肺炎や癌性リンパ管症も鑑別上位に上がる。
肺炎像に見えても実は心原性肺水腫であることもあり、過剰な補液による急速な酸素化低下で焦ってステロイド投与する羽目になる。
内分泌疾患では臓器特異的な症状が出にくいため見逃される可能性がある。副腎不全や1型糖尿病は血液検査などを行わないと検出が難しい。irAEの可能性を常に考慮し、閾値低く検査することが重要である。
どのくらいの重症度で:
CTCAE(有害事象共通用語基準)を参照しGrade1-4で評価する。ガイドライン参照するのが一番である。
イメージとしてGrade1では基本はICI継続、Grade2以上では病態によって中止も検討される。
内分泌系のICIは例外的にホルモン補充で状態安定すればICI継続できる。irAEを発症した群の方が高い抗腫瘍効果が期待でき、予後良好となった報告が多数存在する。癌の予後改善を考慮すれば、ホルモン補充でICI継続できれば安いものである。
参考文献:
ASCOガイドライン(J Clin oncol 39:4073-4126.)
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