●ACSの概念
急性冠症候群(ACS)は急性/亜急性のプラークの破裂、血栓形成により冠動脈血流障害を生じ、急性発症の胸痛や狭心症症状として現れる症候群である。このような冠動脈内血栓によるACSは発症前に症状を認めない軽度な狭窄病変から生じることも少なくない。前駆症状がない心臓突然死の原因となることもある。
ACSは心電図所見、心筋バイオマーカーなどの所見から上記のように分類されます。また心筋障害や心筋梗塞は、アテローム血栓性イベント(type1)と需要/供給ミスマッチ(type2)に関連している場合がある。
●STEMI
STEMIは心電図所見により非ST上昇型急性冠症候群(NSTE-ACS)と区別される。
・診断
STEMIの診断は臨床症状と心電図で行われる。冠動脈プラーク破綻と急性血栓閉塞による急性胸痛と心電図変化は、再灌流療法の必要性を考慮する。
STEMIに特徴的な心電図は「2つ以上の連続する四肢または胸部誘導における少なくとも1mm以上のST上昇(V2-3では男性で少なくとも2mm、女性で1.5mmの上昇が必要)」である。また新規の左脚ブロックはSTEMIと同等と考えられ、LAD領域の障害を反映している可能性がある。
・再灌流療法
生命予後が制限されていないSTEMI患者では、PCI (Percutaneous Coronary Intervention)もしくは血栓溶解療法による迅速な再灌流療法が適応となる。再灌流までの時間が短いことが良好な予後と関連している。
・PCI
発症12時間以内の患者は生命予後改善目的にPCIを実施すべきである。また心原性ショックや血行動態不安定な患者では、発症時期にかかわらずPCIが生存率向上させる可能性がある。
PCIは来院から90分以内の施行を目標とする。血栓溶解療法よりもPCIの方が再開通率が高いため可能な限りPCIを施行する。PCI可能な施設への転送が必要な場合は所要時間が120分以下の場合にはPCIを優先する。
アスピリン162-325mgとクロピドグレル300mg or エフィエント20mgをloading doseで内服する。ヘパリンはすぐに開始することもあるが、すぐにPCI可能な場合は穿刺時の血腫形成リスクを減らすために穿刺後に投与する場合があるため術者に確認する。PCI施行時はヘパリン70-100U/kgを静注しACT250秒以上に維持することが推奨されている。
・血栓溶解療法
血栓溶解療法は発症12時間以内であり、120分以内にPCIを施行できないSTEMI患者に対して推奨される。血栓溶解療法が最も有効なのは発症から3-6時間以内であり、それ以降は血栓溶解は得られにくくなる。また血栓溶解療法は出血関連リスクが増大することに注意が必要であり、脳出血は約1%に合併するとされている。禁忌項目を確認した上で施行する。アスピリンとクロピドグレルのloadingは血管開存率を高めることが示されており、このセッティングでも推奨される。
血栓溶解療法後はレスキューPCIが可能な施設に速やかに搬送する。
・緊急冠動脈バイパス術 CABG
基本的にCABGよりもPCIの方が短時間で施行可能であり、再灌流療法としてCABGを選択する例は限られる。緊急CAG時に梗塞責任血管の末梢側がバイパス可能と判断され、解剖学的にPCIが不適な病変/PCIが不成功な場合にはCABGが適応となる。
・PCI後の急性期管理
PCI後には胸痛の消失、ST上昇の改善、PCI時のTIMIフローなどをまず確認する。
胸痛が消失しSTも低下、TIMI3が得られているようなケースは少し安心であるが、これらが得られていない症例では致死性不整脈などの急性期合併症により一層注意が必要である。
心エコーをあてて新規の心嚢水や急性MRなどの合併症がないことを確認しておく。壁運動低下の程度やうっ血所見の有無も確認し記録に残しておくことが重要である。
起こりうる急性期合併症としては、胸痛再燃やショックはステント血栓症、心破裂、冠動脈穿孔、再灌流障害などを考慮する。鼠径穿刺時には後腹膜血腫の出現もチェックする。
STEMIの1-2%にVFを合併すると言われており、常に頭に入れておく必要がある。蘇生開始しROSCすればアミオダロン静注しながらステント血栓症を考慮し緊急CAGを検討する。VAシースを留置しECMO開始できる準備をしておくケースもある。不整脈発生リスクを上昇させないためにK>4.0、Mg>2.0に電解質補正を行なっておく。
内服薬としてはDAPT、スタチン、PPIは必須である。ニトログリセリン、ニコランジル、ヘパリン持続静注を継続するかは術中所見から術者が適応を判断することが多い。
心保護薬として、うっ血性心不全がない場合はHRを見ながらビソプロロール0.625-1.25mgから開始する。またEF低下があり血圧に余裕があるようならエナラプリル2.5-5mgから開始する。
●NSTE-ACS
NSTE-ACSはSTEMIと同様に、プラークラプチャーや血栓性閉塞に起因する急性虚血障害である。STEMIのような完全閉塞とは異なり、NSTE-ACSではST上昇は伴わない不完全閉塞が見られる。
・リスク評価
NSTE-ACSの初期評価は、病歴聴取、身体所見、心電図、バイオマーカーなどからACSの可能性を見積もる。ACSに可能性が中等度以上ある場合は、TIMIやGRACEリスクモデルなどを用いて予後予測を行う。
・侵襲的治療のタイミング
そもそも胸痛が持続している、機械的合併症がある、血行動態不安定、VT/VFなどを認めている場合はSTEMIと同等の対応をする必要があり、2時間以内にPCIを施行します。Immediate invasiveが必要ない状態では、TIMIやGRACEでリスク評価を行いタイミングを検討します。
Early invasive(24hr以内):GRACE>141、ST低下、心筋バイオマーカー上昇
Delayed invasive(72hr以内):GRACE109-140、DM、CKD、EF<40%など
Non-invasive:GRAVE<109、トロポニン陰性
というような要素を評価しタイミングを決定します。基本的には循環器内科と相談して診療を行います。
・内科的治療
基本的にはSTEMIと関連していますが、血栓溶解療法はNSTE-ACSでは推奨されません。ACSを発症した全ての患者は、アスピリンloading、ヘパリン、high-intensityスタチン、β遮断薬やACE阻害薬などを開始することが推奨されます。
クロピドグレルはCABGを行う場合(多枝病変など)は余計になってしまうので、投与すべきかどうかは専門科と相談しましょう。ルーチンでDAPTにするのは適切ではありません。
参考文献:循環器学会ガイドライン、MKSAP19
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