急性心不全の診断に有用な病歴/身体所見

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心不全増悪で入院歴のある80歳女性が呼吸困難を主訴に救急外来を受診された
これは今回も心不全増悪で良いでしょうか?

「そもそも急性心不全の診断はどうやってやるの?」
急性心不全の初期対応をするにはまず診断をしないといけません、まずは急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)を見てみましょう。
急性心不全の明確な診断基準は存在せず、症状や徴候、BNP/NT-proBNPを参考に診断すると記載されています。つまりこれがあれば急性心不全だといえるものはなく、”らしさ”を集めていく作業が重要です。


「心不全らしい病歴、身体所見は何か」
有名なものではFramingham分類(N Engl J med 1971;285:1441-1446.)があります。問診と身体診察ではこれらを拾い上げることが重要になります。

一般的には発作性夜間呼吸困難→起座呼吸の順番で症状が出ます。発作性夜間呼吸困難は寝た後2-3時間程度で静脈還流が増加し呼吸困難で目がさめるという症状で、起座呼吸は横になると苦しくなるという症状であり混同しないように注意が必要です。起座呼吸の方が余裕がない状態であり、特異度が高い症状であることがイメージできると思います。
下腿浮腫や体重増加を自覚している患者も多いです。足がむくんできた、重くなってきた、靴が合わなくなったなど聴取することで確認できます。下腿浮腫は呼吸困難が生じるかなり前から認められることがあるためいつごろ気がついたかを聴取することが重要です。慢性経過のうっ血であることが確認できます。足がむくむ前の体重を聞いておくことも重要です。利尿を行う場合の目標体重の目安にもなります。

身体所見としては両下腿浮腫、頸静脈怒張、Ⅲ音などが重要です。
頸静脈の診察は右内頸静脈の拍動を観察します。この頸静脈拍動の最高点が中心静脈圧を反映しているとされます。静脈圧が正常の場合は半坐位や坐位では拍動は見えないとされており、静脈圧上昇に伴い拍動の最高点が上昇し視認できるようになります。簡単な目安としては、坐位で右内頸静脈の拍動が右鎖骨上に見える場合は頸静脈圧上昇とする(Am J Cardiol 2007;100:1779-81.)というものがあり、私はこれをよく使用しています。頸静脈の拍動か頚動脈の拍動かわからない時はエコーを当ててみるといいです、頸静脈圧が上昇している場合はパンパンの内頸静脈が拍動の直下に見えるはずです。

次にKussmaul徴候と腹部頸静脈逆流試験を確認します。Kussmaul徴候は吸気時に静脈還流量が増加することで右房圧が上昇し内頸静脈拍動が高くなる現象です。正常では吸気時に胸腔内圧が低下するので静脈圧は低下します。腹部頸静脈逆流試験は腹部を圧迫することで静脈還流量を増やすというもので、圧迫して10秒ほど観察していると正常であれば増えた静脈還流は心臓で処理されて静脈圧上昇は消失しますが、うっ血がある場合は静脈圧上昇が持続し内頸静脈拍動の上昇が持続するということを確認します。

外頸静脈が外から見えるため目立ちますが、こちらではダメなのでしょうか。これは軽微な静脈圧上昇は反映しませんが、坐位や半坐位で怒張があれば中等度以上の静脈圧上昇があることが予想されると言われています。またTRがあれば内頸静脈が静脈圧を反映できなくなるため外頸静脈の方が有用な可能性が言われています(Cardiology 2000;93:26-30.)。

Ⅲ音は左房から左室へ急速に血液が流入することで起こります。左室がパンパンなのにそこに血流が入ってきて、「うっ」となっているイメージです。これは左側臥位で心尖部にベル型聴診器を当てることで聴取できます。Ⅲ音以外にも一般的な胸部診察は行うべきと思いますがここでは割愛します。

心不全増悪で入院歴のある80歳女性が呼吸困難を主訴に救急外来を受診された
問診すると、1-2週間ほど前から足がむくみはじめ靴が合わなくなった、数日前から階段を登るときに息切れが生じるようになり、息切れは徐々に増悪し平地歩行でも生じるようになった。本日睡眠中に呼吸困難感で目が覚めて救急外来を受診した。
身体診察では、座位で右鎖骨上に内頸静脈拍動を認めており、Kussmaul徴候や腹部頸静脈逆流試験は陽性であった。左側臥位で心尖部にⅢ音を聴取する。
病歴/身体所見から心不全増悪と診断した。

まとめると
「心不全の診断は定まったものはなく、Framingham分類を参考に病歴/身体所見から”らしさ”を集めて診断する」

参考文献:
急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
雑誌 Hospitalist 身体診察

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