レプトスピラはまだ自験例がなく、NEJMのCase Recordを読んでみました(N Engl J Med 2024;391:1343-54.)。要点のみをまとめます。
37歳男性の急性経過(9日間)の発熱で、白血球増多、血小板減少、AKI、直接ビリルビン上昇(尿濃染/黄疸)、びまん性浸潤影+GGOという症例でした。New Englandの症例で、ペットは犬、犬と散歩をしたり川を渡ることがあり、ダニによく噛まれるというような生活歴があったようです。
・ダニ関連の感染という観点
ライム病:New Englandでコモン、重症感染という感じではない
アナプラズマ:貧血や血小板減少、白血球減少、肝胆道系酵素上昇
バベシア:マラリアに類似、溶血性貧血(間接ビリルビン上昇なので合わない)
リケッチア:ロッキー山紅斑熱はNew Englandでは稀、特徴的な皮疹がない
・直接ビリルビン上昇という観点
かなり特異的な所見であり、鑑別を立てやすい。
体質性黄疸を除き、胆管炎などの胆汁うっ滞所見がなければ、レプトスピラが重要な鑑別です。
・レプトスピラに関して
熱帯地域に多いzoonosisのスピロヘータ感染症、感染したネズミの尿への曝露(直接 or 水)で感染します。New Englandでは比較的稀ですが、川を泳いでいたという病歴から疑う必要があります。
多くは自然に回復する熱性疾患の様相を呈しますが、10-15%で黄疸を伴う重症型(Weil’s disease)を生じます。発熱、AKI、直接ビリルビン上昇(機序不明)を特徴とし、結膜充血、肺胞出血、心筋炎などの合併症を起こしうるようです。
この症例では、肝生検(レプトスピラ染色)、血清学的検査とNAATを行ったようです。
肝生検→非特異的な所見、スピロヘータ免疫染色は陰性
11日目の血清(CDCに送付)→IgM ELISAによりIgM抗体が陽性
NAAT→11日目の全血と尿(CDCに送付)→全血は陽性、尿は陰性
・レプトスピラの診断方法
診断は①病原体の直接検出(NAAT、顕微鏡的凝集試験MAT)、②レプトスピラ抗体の検出を理解する
①病原体の直接検出
発症後1週以内では、血中にレプトスピラが存在するため、全血のNAATが推奨(全血ないなら血清でも良いが感度低下)。この時期からIgMおよびIgG抗体が血中に出現し始めるため、急性期血清でのIgM検査やMATを行う。
(MAT=血清とレプトスピラの生菌を混合し、凝集を顕微鏡で見るという検査)
発症後1週を過ぎると、尿中レプトスピラが排泄される可能性があり、尿を用いたNAATが推奨される(尿中排泄は間欠的であり感度は高くない)。回復期血清でもIgG検査、MATを行う。

本邦でレプトスピラを疑った時は、保健所に連絡して検体提出を行うのが良さそうですが、国立健康危機管理研究機構のHPに検査依頼の方法が書いてあるので保健所の対応が微妙な場合は、そちらに相談してもいいかもしれません。
HP参照すると、
抗体検査は急性期と2週間後のペア血清をそれぞれ凍結し送付
培養・遺伝子検査は抗菌薬投与前の血液をヘパリン管採血し常温で送付
尿や髄液は凍結して直ちに送付
という記載になっており、“抗菌薬投与前”の検体が送付できるようにしたいです。
【参考文献】
N Engl J Med 2024;391:1343-54.
国立健康危機管理研究機構のHP:
https://www.niid.jihs.go.jp/content2/research_department/bac1/lepto-exam.html?utm_source=chatgpt.com
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