肝酵素上昇のマネジメント

GIM

肝酵素上昇を認めた場合のマネジメントについてまとめます。ACG Clinical Guideline:Evaluation of Abnormal Liver Chemistriesを参照しています。
以前肝酵素上昇のマネジメントがよくわかっていなかったとき、消化器内科指導医に「これが全てだ」と言って教えてもらいました。

●肝酵素上昇の基礎
・肝逸脱酵素の解釈

AST、ALT、ALP、Bil:肝障害のマーカーであり肝機能は反映していない
Alb、Bil、PT:肝機能を反映しうる


ALTはASTよりも肝臓特異的である
ASTは肝臓、心筋、骨格筋、腎臓、脳などに分布する
→ALT上昇を伴わないAST上昇は心疾患/筋疾患を疑う

ALP上昇はγ-GT上昇や分画を評価することで肝臓由来か判断する
ALPは肝細胞の胆管膜上に存在する
骨、胎盤、腸管、腎臓にも存在する
一般的にALPは胆道閉塞で上昇するが、ALPの胆道内での合成亢進や類洞への移行によるもので肝障害の指標となる

Bilは古い赤血球の破壊により生じ、アルブミンと強く結合して間接Bilとして循環している
UDP-グルクロン酸トランスフェラーゼにより直接Bilとなり水溶性となる
直接Bilの上昇は肝細胞異常や胆汁うっ滞を示唆する
間接Bilの上昇は肝疾患が原因である可能性は低い

・肝細胞機能
肝細胞機能のマーカー:AlbとPT
Albは肝臓で合成され半減期は3時間である
Alb低下は肝機能低下が3週間以上続いていることを示唆する

PTはAlbよりも鋭敏な指標であり、重篤な肝障害では24時間未満の持続でも生じる
外因系の凝固経路にはVitKが関与しており、胆汁うっ滞があればPT延長しうる
WF、ヘパリン、DIC、低体温でも延長しうる

●肝酵素上昇に関するRecommendation
1.肝酵素上昇の評価を始める前に血液検査を再検し実際に異常かを確認する
2.慢性C型肝炎の検査ではHCV抗体を提出し、HCV-RNAを検査して診断する。HCVリスクはdrug user、刺青、ボディーピアス、輸血、ハイリスクな性交渉などである。
3.慢性B型肝炎はHBs抗原を提出する。急性B型肝炎はHBs抗原、HBc-IgM抗体を検査する。リスクは流行地で生まれた人、MSM、透析患者、HIV、妊婦、HBV家族歴などである。
4.急性A型肝炎は糞口感染の可能性がある急性肝炎の患者で疑い、HAV-IgMを検査する。急性E型肝炎は流行地から帰ってきた患者の肝炎でHAV、HBV、HCVが陰性の場合に疑い、HEV-IgMを検査する
5.BMIが高い患者やメタボ、DM、肥満、HL、HTなどがある患者のmildなALT上昇はエコーでNAFLDをスクリーニングすべきである
6.女性で140g/week、男性で210g/week以上のアルコール摂取があり、AST>ALTの場合はアルコール性肝障害を疑い節酒をすすめる
7.肝酵素上昇があり急性肝炎の所見がない全ての患者で、遺伝性ヘモクロマトーシス(鉄、TSAT、フェリチン)を評価する。HFE遺伝子変異分析はTSAT>45%±フェリチンの上昇で検査する。
8.AST、ALTの上昇がありその他の自己免疫疾患を有する患者では、自己免疫性肝炎の評価でANA、ASMA(抗平滑筋抗体)やグロブリン値を検査する。
9.一貫してAST、ALTが上昇している患者で特に55歳未満の場合は、Wilson病をスクリーニングするためにセルロプラスミンを評価する。低値であれば、24時間尿中銅やsilt-lamp eye examinationを評価する。
10.AST、ALTが持続的に上昇している場合にα-1アンチトリプシン欠損症を考慮する。
11.肝酵素上昇の患者にはDrug-induced liver injuryと関連する薬剤、サプリメント、ハーブなどがあるか聴取する
12.肝生検は血液検査、画像検査で診断に至らなかった場合、ステージング(線維化の評価)、複数病態の関与が疑われる場合に有用である
13.ALP上昇はそれだけでは肝特異的ではないためγ-GTPを評価する
14.ALP上昇があればBil上昇があってもなくてもPBCの評価を行う(抗ミトコンドリア抗体)
15.ALP上昇があればBil上昇があってもなくてもIgG4に加えてMRCPやERCPでPSCの評価を行う
16.ALT±ASTが正常上限の5倍以上であれば、HBV、HCV、アルコール、NAFLD、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病、α1-アンチトリプシン欠損症、自己免疫性肝炎、Drug/Supplement related injuryの病歴や検査を評価する
17.ALT±ASTが正常上限の5-15倍であればHAV、HBV、HCVに加えて5倍以上で評価すべき病態を評価する
18.ALT±ASTが正常上限の15倍以上、ALT>10000であればアセトアミノフェン中毒とショック肝を評価する
19.急性肝炎患者でPT延長、脳症があればすぐに専門科紹介する

参照:
ACG Clinical Guideline:Evaluation of Abnormal Liver Chemistries

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