感染性心内膜炎の手術タイミング

感染症

【Clinical Question】
感染性心内膜炎(IE)での適切な手術タイミングはどうやって決めたらいいのでしょうか。ガイドライン通りで問題のない症例もありますが、複雑な症例では元文献の理解も必要です。

【Answer】
まずIEの手術適応についてまとめます。

内科的治療では埒があかないときというイメージですが、
① 重症弁膜症、コントロールできない心不全、弁輪周囲膿瘍などの感染進展
② 感染コントロールがつかない、治療困難な病原体
③ 塞栓症のコントロールがつかない、疣贅が10mm以上

があげられます

このうち心不全は手術によるメリット(予後改善)が最も大きいと言われています。外科治療前のIE死亡の90%は心不全が原因とされています。2011年のJAMAに、HF合併IE患者における院内死亡率と外科治療後の予後について調べた前向き多施設研究があり、HF合併IE全体の院内死亡率は29.7%、弁手術施行例では20.6%、内科治療のみでは44.8%と報告されています。1年死亡率も同様に、弁手術施行例では29.1%、非施行例で58.4%とそれぞれ有意差を認めています。この研究でのlimitationとしては、手術施行における選択バイアスがあり、propensity score adjustmentを行っていますが、バイアスをなくせるものではないため注意が必要です(RCTも無理ですが)。

持続菌血症(適切な治療を行っているのに7日以上菌血症が持続)に対する外科手術のエビデンスについては、データが限られています。持続菌血症が6ヶ月死亡率上昇リスクと関連しており、手術が生存率改善と関連したことが報告されていますが、これも同様に交絡因子が排除しきれず、それ単独で手術適応とすべきかは難しいところです。

疣贅のサイズや塞栓症リスクに関して、有効な抗菌薬治療開始後は塞栓症リスクは急速に低下し、重篤な塞栓症イベントは治療開始1週間以内に多いとされています。抗菌薬治療開始後の塞栓イベントは、”疣贅が10mm以上”と”疣贅の可動性が大きい”ことが有意な予測因子であったとされており、手術適応の根拠となっています(心不全などの他の手術適応がない場合に外科的治療が予後を改善するというデータはない)。

次に手術タイミングについてですが、これは“手術適応の緊急度”と”手術の周術期リスク(特に頭蓋内出血)”を天秤にかけ決定する必要があります。手術適応がある場合は、数日以内の手術施行が推奨されており、介入を遅らせるメリットはないとされています(菌血症が消えるのを待つ必要はなく、臨床的転機や再発率には影響しない)。また無症候性脳梗塞/脳膿瘍、T2*での10mm未満の微小出血でも同様に手術延期を要さないとされています。

逆に手術延期を検討すべき状況としては、重度神経障害を伴う脳梗塞/脳膿瘍、頭蓋内出血、感染性動脈瘤破裂があげられます。頭蓋内出血リスクが高い状況では、術中/術後の抗凝固が問題となり、手術適応の緊急度を確認する必要があります。このような場合では、脳外科、心臓血管外科を含めた多職種でのカンファレンスが必要です。

AHAガイドラインでは、IE+出血性梗塞 or 重篤な脳梗塞がある患者では、手術延期が可能な場合、少なくとも4週間手術を遅らせることが推奨されています。これは、後方視研究で4週間以内の手術群は4週間以降の手術群よりも死亡率が高かった(75% vs 45%)ためですが、症例の選択バイアスは免れず、早期手術をせざるを得ない症例では予後が悪かったとういう可能性も否定できません。実際には手術が待てるなら待てばいいですが、待てないという症例もあり、その場合は救命のため手術に踏み切るしかないこともあります。

そのため脳梗塞を伴う手術適応IEでは、心臓血管外科と脳外科を中心として合同カンファレンスを早期に行うことが重要と考えています。心臓血管外科側からは、TEE所見、手術適応の緊急度(手術延期のデメリット)、術式(人工弁 or 生体弁 or vegerectomy/plasty)、脳外科側からは頭部画像所見(出血、感染性動脈瘤の有無)、出血リスク/出血時のダメージ(出血時開頭減圧術の準備)をプレゼンしてもらい、よくすり合わせておく必要があります(手術を待つならどうなったら手術に行くか、早期手術をするなら画像フォローや出血時の対応について)。

【Clinical Pearl】
・IEの手術適応は①心不全・重度弁膜症、弁輪周囲膿瘍など、②持続菌血症(>7日)、治療困難な病原体、③疣贅>10mmがあげられる。
・このうち、心不全は手術適応の主要な原因であり、早期手術による死亡率低下が示唆されている。
・出血性梗塞や重篤な脳梗塞がある患者では、手術適応の緊急度と頭蓋内出血リスクを天秤にかけ、手術適応を検討する必要がある。手術延期が可能な患者では最低4週間の延期が推奨されている。
・心臓血管外科や脳外科と合同カンファレンスを行い、手術タイミングや合併症出現時の対応を協議しておく必要がある

【参考文献】
Circulation. 2015 Oct 13;132(15):1435-86.
JAMA. 2011 Nov;306(20):2239-47. 
J Am Heart Assoc. 2016;5(4):e003016. 
N Engl J Med. 2012 Jun;366(26):2466-73. 
Circulation. 2013 Jun 11;127(23):2272-84.  

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